『風立ちぬ』〜「実感」の再発見


宮崎駿監督『風立ちぬ』、観た。全体としては新鮮かつ濃密な場面の連続! 大画面で映像作品を観る喜びが充満していて、自分は全編堪能。

特に感心したのは、風、雲、雨、煙、草花、影、地震といった人物以外の事象の表現。東映動画以来培われてきた、ある種完成された手法に止まることなく、どうすればそれらを迫真性を持って伝えられるか、もう一度いちから考え直しているような描写の数々に意欲と野心を感じた。町並みに走る衝撃波のロングショットと、同時に地面の小石がバラバラに動くクローズアップで伝えられる関東大震災のシーン。眼鏡をかけた人物の顔の角度によって、瞳や眉毛が二重に見えたりするあたりなど、とにかく拘りが凄い。

人物においては、主人公・堀越二郎と妻となる菜穂子の恋の場面に、ただ事ではないエロスが漲っていて、かなりびっくり。ふとした細かな仕草や表情の変化と、反対に爆発するようなダイナミックな動きの両方が官能を生み出しているのだと思う。

今回は、演出家・物語作家としての宮崎監督よりも、アニメーター・場面設計家(レイアウター)としての宮崎監督の天才性と意地が前面に出た気がする。絵が動くことから生まれる「実感」の再発見。この監督の真価が発揮された作品なのではないだろうか。