携帯ゾンビホラー『セル』はキングらしい力作


かつては出るたび欠かさず買い込んでいたスティーヴン・キングの新作長編だが、90年代に入ってからあまり読まなくなってしまった。刊行のペースの早さに追いつけなくなったということもあるけれど、たまたま手にした作品『骨の袋』があまり面白くなく途中で投げ出してしまったため、近年のキング作品にあまりいい印象がなかったせいもある(ただし『ドリームキャッチャー』は大好き。夢中で読みました)。

キングといえば、本題である超常現象が起こる前に、延々と主人公を取り巻く日常が細部に渡って描写されるのがお決まり。それこそがキングらしさでファンには楽しみでもあると同時に、『骨の袋』のように、時には見せ場に辿り着く前にだれてしまう原因にもなる。

だが今回の新作『セル』は、キングの長編としてはほとんど例外的に、冒頭数ページでいきなりゾンビ化現象が勃発するというフルスロットルの幕開け。一気に作品に引き込まれてしまう。

前半は、数々の名作ゾンビ映画を髣髴とさせる、おっそろしくもアドレナリンがたぎる地獄絵図がキングならではの細部描写の巧みさでこれでもかと描かれ、後半では一般的なゾンビものとはひと味違うSF的な展開が待っている。主人公のグラフィック・ノベル作家の視点にぴたりと寄り添ったまま物語が進むので、終末的世界への没入感は格別。

携帯電話が人間ゾンビ化を引き起こすというワン・アイデアもシンプルながらも斬新だが、クライマックス、それを逆手に取るような逆転劇を仕込むあたりがさすがキング。現実が崩壊した世界を堪能する一方で、一種のロード・ノベル的な味わい(ゾンビ旅情)と、主人公と共に旅する仲間との関係が心に沁みた作品なので、『ホステル』イーライ・ロスによる、いかにもゴア指数高そうな映画化はどうなんでしょうか……。

セル(上) (新潮文庫)

セル(上) (新潮文庫)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)

セル 下巻 (新潮文庫 キ 3-57)


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